院長コラム『Dr.原口のご存じですか?』
白癬とは?
白癬は、ケラチン蛋白(表皮の角質層)を栄養源とする皮膚糸状菌という真菌(カビ)の感染症です。皮膚糸状菌が角層、毛、爪に留まる浅在性白癬と、皮膚深部(真皮、皮下組織)あるいは内臓まで存在する深在性白癬に分類されます。
浅在性白癬には頭部白癬、股部白癬、体部白癬、足白癬、手白癬、爪白癬などがあります。
深在性白癬は掻き壊すなどで皮膚深部に侵入した皮膚糸状菌が、免疫不全やステロイドの長期外用などで免疫力が落ちている場合に真皮や皮下組織内で増殖して白癬性肉芽腫を形成するのが大部分で、内臓にできる白癬性肉芽腫は極めて稀です。
白癬の発症には皮膚の温度、湿度などの環境要因が強く関係しており、浴室の足ふきマットなどには高率に存在するとされています。皮膚表面に付着した皮膚糸状菌が角質に侵入して定着するには24時間程度かかるとされています。
日本国内の疫学調査では人口の16.7%に足白癬、9.2%に爪白癬、19.6%に足または爪白癬が認められると推定されています。
ここではよく見られる足白癬と爪白癬について解説いたします。
<白癬の分類表>
分類 | 感染部位 | その他 | 病名 | ||
---|---|---|---|---|---|
浅在性白癬 | 角質層 | 非有毛部 | 手 | 手白癬 | |
足 | 足白癬 | ||||
有毛部 | 陰部 |
陰部白癬 |
|||
体部 | 体部白癬 | ||||
顔 | 顔面白癬 | ||||
爪 | 爪白癬 | ||||
毛 | 頭髪 | 毛包周囲炎なし | 頭部白癬 | ||
毛包周囲炎なし | ケルスス禿瘡 | ||||
深在性白癬 | ひげ | 毛包周囲炎なし | 白癬性毛瘡 | ||
真皮、皮下脂肪組織 | 白癬性肉芽腫 |
「足白癬」
小水疱型(汗疱型)、趾間型、角質増殖型に分類されます。
- 小水疱型
土ふまずや足のへりに小さな水ぶくれができ、初期はかゆみがないこともあります。梅雨時期に症状が強くなり、秋になると落ち着くことが多いとされています。 - 趾間型
最も多いタイプです。足の指のまたが乾燥して細かな皮がむけている乾燥型と、白くふやけた湿潤型があります。特に湿潤型はかゆみが強い傾向にありますが、初期はかゆみがないことがあります。趾間型も梅雨時期に症状が強くなり、秋になると落ち着くことが多いとされています。小水疱型や趾間型をこじらせて、別の細菌感染を併発すると蜂窩織炎やリンパ管炎になることもあるので、適切な治療をしなくてはなりません。特に、持病に糖尿病がある方は重症化しやすく注意が必要です。 - 角質増殖型
最も少ないタイプで足白癬の7~8%とされています。踵から足の裏全体の角質が厚くなり、ひび割れやあかぎれのような状態になります。慢性的に経過して季節による変化があまりありません。保湿しても踵のひび割れが治らない場合は、足白癬の可能性があります。
「爪白癬」
爪が分厚くなり、濁ったような色に変色します。進行すると爪が変形してもろくなり、巻き爪の原因となることがあります。
白癬の診断・検査
皮膚や爪の一部をピンセットなどで採取して顕微鏡で観察することで、数分程度で診断が可能です。治療効果判定の際にも行います。
白癬の治療
理論上、皮膚糸状菌が感染している部位の皮膚・毛・爪が新陳代謝されて新たに入れ替わる期間、抗真菌薬(外用、内服)の有効濃度が維持できれば治癒するはずですが、現実にはそれよりも長期間の治療が必要です。 一般的には、体部白癬・股部白癬は1-2ヶ月、足白癬は軽症で3ヶ月、重症例では1~2年、頭部白癬は2~3ヶ月、手の爪白癬は3-6ヶ月、足の爪白癬は0.5~1.5年程度の治療が必要になります。特に重症の足白癬や爪白癬では外用剤だけでなく、内服治療が必要になります。
- 外用治療
抗真菌外用薬には液剤(ローション)、クリーム剤、軟膏等があり、クリーム剤は塗りやすく、角質層への浸透性が良いため、最も頻用されています。しかし、湿潤した部位やびらん部位にクリーム剤や液剤を外用すると悪化しやすく、治療薬の使い分けが重要です。近年では爪への浸透性が高い爪白癬治療薬も使用されるようになり、内服治療ができない方の治療ができるようになりました。 - 内服治療
白癬治療に使用される経口抗真菌剤には、イトラコナゾール、テルビナフィンがあります。 イトラコナゾールとテルビナフィンは作用が強く、副作用が少ないなどの優れた性質を持ち、臨床効果も優れています。両者とも内服治療中は肝・腎・血液障害などの可能性があるので、定期検査が必要です。また、イトラコナゾールはパルス治療が可能ですが、種々の薬剤との相互作用があり、併用できない内服薬があるため注意が必要です。
- 足白癬
小水疱型や趾間型足白癬では、抗真菌外用薬が第1選択になります。病変部のみだけでなく、足のうら全体にも使用します。また、足白癬を治癒させても、家庭内にはびこる皮膚糸状菌を根絶しないと、再感染を生じる可能性があります。趾間型足白癬で湿潤のひどい場合や細菌感染を併発している場合、抗真菌外用薬などによる接触皮膚炎を合併している場合などは、短期間抗生剤、ステロイド剤、亜鉛化軟膏などを併用して病変部を乾燥させてから、白癬の治療を行います。
角質増殖型足白癬は、外用剤だけでは治癒せず、角質軟化剤や経口抗真菌剤の併用が必要になることがあります。
いずれも軽症例で3ヶ月程度、多くの場合では1~2年程度の外用が必要です。 - 爪白癬
爪白癬は、外用剤だけでは治療が難しく、経口抗真菌剤による治療が必要です。通常、イトラコナゾールパルス療法(1週間内服後に、3週間休薬を3サイクル繰り返す)か、テルビナフィンを6ヶ月毎日内服する治療を行います。これらの内服治療を行っても治りにくい爪白癬があり、病変部を物理的に削り取ってから、内服と外用治療を併用することもあります。また、持病などが原因で内服治療ができない場合は、病変部分を削り根気強く外用治療を行うことになります。